こんにちは。エムズ歯科クリニック下落合の金森です。冷たい空気に冬の訪れを感じ、朝晩はコートが手放せない季節になりました。乾燥しやすい時期でもありますので、お口の中の違和感にも少し気を配っていただければと思います。今回は、診療中に何気なく使っている言葉についてお話しします。
歯科医院では「口を“あいて”ください」という声かけをよく耳にします。日常生活では「口をあけて」と言う方が一般的ですが、歯科の現場では「開く(あく)」という言い方が、ほぼ慣用表現として定着しています。
「あける」は他動詞で、誰かが対象を操作する意味合いを持つ言葉です。一方、「あく」は自動詞で、口がその状態になることを表します。診療中に「あいてください」とお伝えするのは、患者さんの身体をこちらが操作するというニュアンスを避け、口が開いた状態になっていただくことを丁寧にお願いする表現だと説明することもできます。
ただし、これはあくまで一つの考え方にすぎません。全国の歯科医院で同様の言い回しが広く使われている一方で、なぜこの表現が定着したのか、その出自や成立過程を詳しく検討した研究は見当たりません。歯科医師が文法を厳密に意識して使い分けているというより、臨床の現場で自然に受け継がれてきた言葉と言えるでしょう。個人的には、どなたかが一度きちんと調べてくださると面白いのに、と感じています。
日本語には、自動詞でありながら「を」を伴う表現がいくつかあります。その一例が「頭を垂れる」です。「垂れる」は本来、自動詞で、何かが自然に下がる状態を表します。ここでの「頭」は、操作される対象ではなく、状態変化が及ぶ身体の部位を示しています。そのため、この表現は動作の指示というより、姿勢や態度、あるいは気持ちの表れとして使われます。
このような職業固有とも言える言い回しは、歯科に限らず、さまざまな業界に存在します。日常の中で感じるちょっとした言葉の違和感に、ふと立ち止まって思いを馳せてみることは、日々を少し豊かにしてくれるかもしれません。歯科医院で交わされる何気ない一言が、日本語の奥行きを感じるきっかけになれば幸いです。

