歯周病とは

歯周病とは

最近はニュースでも国民皆歯科健診の話題が出ていますが、歯科の健診において成人の方が虫歯より重要な口の中の病気が歯周病です。歯周病は全身の病気との関連があるといわれている病気です。少し堅苦しい話になりますが、とても大切なお話ですので、最後までお付き合いください。

まず歯周病は、歯の周りの組織=歯周組織に起こる感染症です。その歯周組織とは、①歯肉、②歯根のセメント質、③歯槽骨、④歯根膜のことをいいます。

歯周病とは

①歯肉

①歯肉についてですが、歯肉は歯茎ともいいます。この歯肉はコラーゲン線維が半分以上を占めており、その線維が歯肉を歯の根と顎の骨の歯槽骨に強くくっつき(結合させ)歯に押さえつけ引き締めています。細菌による感染が起こると、このコラーゲン線維が炎症によって維持力が弱くなり、切れ、その結果として歯とくっついていた力が弱くなるので歯が揺れて動いてくる(動揺を起こす)原因となります。つまり歯周病で歯がグラグラと揺れる、というのは歯と歯槽骨を固定していた線維の維持が弱くなったことによるものです。

②歯根のセメント質

②歯根のセメント質についてですが、これは歯の根の表面にある石灰化した組織のことです。この歯根のセメント質に歯根膜の線維が入り込むことで歯を歯槽骨の中で固定します。人の骨と同じ硬さです。

③歯槽骨

③歯槽骨とは、歯を支えている顎の骨のことです。

④歯根膜

④歯根膜は、歯の周りにある厚さが0. 25mmの線維のことです。この歯根膜が歯槽骨と歯根のセメント質の両方とくっついて歯を固定しています。また、血管からの栄養の供給、噛んだ際の反射、咬み合わせの違和感を感じとるセンサーの役割もしています。皆さんも経験ある方が多いと思いますが、歯科医院で詰め物や被せ物を調整中の咬み合わせが高い時に感じる違和感は、この歯根膜が反応しています。歯根膜はわずかな違和感も感知する素晴らしいセンサーでもあるのです。そして歯根膜には血管から血液中の免疫作用が供給されている事が重要であり、初期の感染への防御機構も行っています。

これら4つの歯周組織が、歯垢の中いる細菌によって起こる炎症のことを歯周病といいます。歯周病はサイレントディジーズ・沈黙の病気、とも言われています。これは感染しても痛みを感じることなく気づかないうちに進んでいくことがあるため、です。

そしてこの歯周病は、大きく歯肉炎と歯周炎に分けられます。ここから少し専門用語も多くなりますのでご容赦ください(笑)

健康的な歯肉、歯槽骨の状態

こちらが健康的な歯肉、歯槽骨の状態です。

歯肉炎は、歯肉の腫れ、赤みといった歯肉のみの炎症のことで、最初のほうで説明をした顎の骨である歯槽骨や歯根膜などの歯周組織の破壊が見られないものをいいます。

歯肉炎:軽い炎症の所見

歯肉炎ですので、先ほどの健康なものと比べると少し歯の周りの歯肉に赤みが見られます。軽い炎症の所見です。

歯周炎は、歯肉の腫れ、赤みに加え、歯周ポケットの深さの増大、歯周ポケットからの出血、排膿、歯の動揺や移動、そして歯槽骨の吸収・喪失が見られます。炎症の範囲が歯槽骨にまで及ぶため、出血・排膿が多かったり、歯が動くことで咬むことも難しくなる事があります。歯周病は歯周ポケットの深さ、歯槽骨の吸収・喪失の程度により、段階が分かれます。

歯槽骨を失うと、歯が顎の骨に支えられていないので、揺れてしまい十分に咬めない

特にこの図のように、歯槽骨を失うと、歯が顎の骨に支えられていないので、揺れてしまい十分に咬むことができません。

この歯周病は、特定非営利活動法人・日本歯周病学会の報告によりますと、国民の3人に2人は歯周病になっていると言われています。また平成28年歯科疾患実態調査によりますと、歯周病である4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合は年齢が高くなるにつれて増加し、45~49歳で約50%、65~74歳では約57%を示し、高齢者において4mm以上の歯周ポケットを有する者の増加が著しくなっています。また、歯肉の炎症である歯肉出血を有する者の割合は 15~29歳では30%を超え、30歳を過ぎると40%を超えることから、若年期から歯周病に対する予防、あるいは重症化予防を行うことが今後さらに求められる、という事です。
※日本歯周病学会ホームページ参照。

歯周病の主な原因は細菌感染によるものです。しかしそれ以外にも喫煙、ストレス、薬物等による環境が要因となるもの、これとは別に患者さん自身の体質、妊娠、全身疾患等が関係するものもあります。また、非常に特殊ですが、遺伝子が関与する予防が難しい歯周病も報告されています。
※日本歯周病学会ホームページ参照。

皆さんも何となく聞いた事があると思いますが、最近、歯周病と全身疾患との関係が色々とわかってきました。歯周病は慢性炎症の病気であり、歯周病が原因となって起こる病気は糖尿病、誤嚥性肺炎、心筋梗塞・動脈硬化症、早産・低体重児出産、アルツハイマー病、癌などがあります。この中でも特に糖尿病との関連はとても深く、歯周病の治療により糖尿病の状態が改善することも報告されています。ダウン症候群などの遺伝子の病気によっても、歯周病が発症または重症化しやすくなります。また、扁平苔癬や天疱瘡という皮膚疾患や血液の病気である白血病、免疫不全の病気のエイズなどに罹患していると、歯肉から出血しやすくなったり、歯肉に痛みが出たりすることがあります。HIV感染者は特徴的な歯肉炎が見られることがありますので、気になる方は歯科医師へ相談をしましょう。



著者経歴

片山 翔一

片山翔一

  • 2006年3月 神奈川歯科大学歯学部卒業、歯科医師免許取得
  • 2006年4月 神奈川歯科大学附属病院総合診療科 臨床研修歯科医
  • 2007年4月 医療法人社団翔舞会エムズ歯科クリニック 入社
  • 2017年4月 神奈川歯科大学附属横浜クリニック 成人歯科・歯周療法部門 在籍

[主な所属・役職]

  • 厚生労働省認定歯科医師臨床研修指導歯科医
  • 日本歯周病学会認定医 第1465号
  • 日本口腔インプラント学会専修医 第1429号
  • 神奈川歯科大学附属横浜クリニック 成人歯科・歯周療法部門 臨床専攻生
  • 京都インプラント研究所 所員
  • 日本歯周病学会 会員
  • 日本口腔インプラント学会 会員