歯科における三種の神器

かつて、テレビ、冷蔵庫、洗濯機が、家庭の三種の神器、と言われたことがありました。

これらが無かった時代のことを想像してみてください。三種の神器の普及によって、生活が激変したことがわかると思います。それになぞらえて、歯科においては、歯科用CT、マイクロスコープ、CAD/CAMと口腔内スキャナー、が三種の神器といわれています。これらの登場で、歯科治療は大きく進歩し、治療成績が向上しました。

ここでは歯科における三種の神器についてご紹介いたします。

歯科用CT

歯科用CT

「二次元の平面」だったレントゲンを「三次元の立体」で見られるように

まず一つ目。CTについて、説明します。

昔は、口の中に入れて3本前後の歯を撮影する「デンタル」と呼ばれるレントゲンしか無い歯科医院も多く、顔の周りを機械がぐるっと回って、全ての歯を撮影する「パノラマ」と呼ばれるレントゲンがあったらすごい、と言われた時代もありました。

時代は流れ、いまや「二次元の平面」だったレントゲンを「三次元の立体」で見られるようになりました。

CT画像

従来のレントゲンは、立体である人間の体を、平面に映し出すところを、CTは、立体をそのまま立体として、映し出すため、より正確な診断が可能となります。2018年の時点で、およそ全国の歯科医院の20%に設置されていると言われています。※1
※1 歯科診療の放射線利用 とその現状 明海大学歯学部歯科放射線学分野 教授 奥村泰彦

さらに、進歩は続き、「低線量」によりレントゲン診査の一番のデメリットである被曝量を抑え、「撮影スピードの高速化」により、患者さんのわずかなふらつきによる撮影時のブレの影響をおさえ、より高精度な診断を可能としました。また、エムズ歯科クリニックが採用しているデンツプライシロナ社のレントゲンシステムは、「直接変換方式オートフォーカス機能」を採用しており、ヒューマンエラーを最小限にとどめ、再撮影をなるべく減らし、ドクターが見やすいレントゲン写真となっています。その結果、診断がしやすく、治療の質の向上が見込めます。

直接変換方式オートフォーカス機能

従来の間接変換

新しい技術の直接変換

*左が従来の間接変換、右が新しい技術の直接変換

また、被曝量について、触れておきます。

全身を撮るような医科用のCT(医科用CT胸部撮影は約6,900μSv)と、歯科用CT(通常撮影で約80μSv、低線量モードでは3~20μSv)では、被曝量が大きく異なります。

被曝量について

放射線被曝というデメリットは、ゼロ、であることに越したことはありませんが、治療の質が上がるというメリットが大きいため、医療ではレントゲン撮影による診断を行っております。

歯科においては、他科との違いとして、「歯」という硬い組織、「歯」が埋まっている「顎の骨」を対象に治療を行うことが多いため、現代の歯科医学は、その多くが、レントゲンによる診断を前提に組まれています。

レントゲン装置の性能が高いことは、治療の質を上げることにつながります。


マイクロスコープ

三種の神器、二つ目は、マイクロスコープ(手術用顕微鏡)について説明いたします。歯科治療は、非常に細かい作業の連続です。口腔内にある歯には、熱いものから冷たいもの、酸性からアルカリ性、そこに咬合力という強大な力がかかります。

そもそも、天然の歯が、何らかの理由で壊れてしまったところに、人工物を入れて長期間もたせようということ自体、通常であれば不可能に近いわけです。それを可能とするには、かぶせ物の精度を一つとっても、誤差は、数十ミクロン以内(1ミクロン=0.001mm)が求められます。歯の中に入った菌を取り除く治療にしても、このように、肉眼では全く見えない中で従来は治療を行うしかありませんでした。

マイクロスコープで撮影したときの写真

写真1,2,3が肉眼で見た時のものです。いくら目をこらしても、光がなければ奥までは見えません。写真4がマイクロスコープで撮影したときの写真であり、根の先端まで見えていることがわかります。黒矢印は、だいたいどのあたりまで見えている写真なのかを示しています。

マイクロスコープを使用することで、見ながら治療を行うことができるようになりました。「見えない状態で行う治療」と「見える状態で行う治療」では、「見える状態で行う治療」の方が、精度が高くなり、治療の質が上がります。


口腔内スキャナー、CADCAM 診断技術

口腔内スキャナー01

口腔内スキャナー02

三種の神器、三つ目は、口腔内スキャナーとCAD/CAMについて。最後に、三つ目として、口腔内スキャナー、CAD/CAMについて説明いたします。
様々な分野で、デジタル化の波が押しよせていますが、歯科医療にもその恩恵がきています。

まずは、口腔内スキャナーから説明いたします。

歯科治療で嫌なものの一つに、型どり、があります。ドロドロしたものをぐちゃっと口の中に入れて、固まるまで2分~5分待つ、という、多くの方が経験したことがあるものです。この、型どり、のことを、歯科用語では、印象、といいます。そして、口腔内スキャナーは、この印象を、カメラで撮影するだけですませることができるものであり、従来の型どりとは全く違うものとなりました。光で型どりするので光学印象、と呼ばれています。

従来の型取りと比較した際のメリットは、1)口の中に、ドロドロした材料をいれて数分間、耐える必要が無く、撮影の途中でも中断、休憩して、また途中から再開できること。(従来の方法は、途中で休憩はできません。最初からやり直しになってしまいます)、2)一般的に、光学印象のほうが、従来の型どりよりも早く終わります、3)歯科において、従来、最も精度が高いといわれているシリコーン印象法と比較しても、同等か、あるいは、光学印象の精度が高いこと。数値で言えば、誤差が30㎛程度までに抑えられる機種も出てきています。エムズ歯科クリニックが利用している「Primescan」という機種は、現行機種としては2022年の段階で高い正確性をもつ機種の一つです。また、保険診療で一般的に使用されている安価な型どり材料(寒天アルジネート印象法)と比較した場合では、光学印象の精度が優れています。

エムズ歯科クリニックでは、積極的に、この光学印象法を取り入れて、精度の高いつめ物、かぶせ物を製作しています。

つぎに、CAD/CAMについて説明します。

従来の型どりでは、口の中から取りだした印象材に、石膏を注いで模型に起こします。この模型が、患者様の歯のコピーとなっているため、その上で、かぶせ物などを製作していきます。

印象材
石膏を注いで模型に
かぶせ物などを製作

しかし、先に書いた口腔内スキャナーによる光学印象の後は、このように、コンピューター内に、仮想の模型として表示されるため、設計、製作も、コンピューター上で行うことになります。

この、設計、製作をする部分を、CAD/CAM (computer-aided design / computer-aided manufacturing) といいます。コンピューターによる支援を受けてデザインし製造する、ということです。光学印象により、アルギン酸、石膏、シリコンなどの医療ごみを減らし、環境にとってもやさしい技術なのです。

CAD/CAM 01
CAD/CAM 02
CAD/CAM 03

また、つめ物、かぶせ物を設計、製作するだけでは無く、先に説明したCTと連携し、治療する前にCT上で最終的に作るかぶせ物の設計も行うことができます。

たとえば、一本の歯が失われて、そこにインプラントによる治療を行おうとしたときに、先に、理想的なかぶせ物の形を設計して、その理想的なかぶせ物を支えるためには、インプラントはどこに埋めるのが理想的なのか、ということも診査診断することが可能となっています。

エムズ歯科クリニックでは、全てのインプラント治療に対して、この設計を行っております。



著者経歴

佐藤優樹

佐藤優樹

  • 2003 年 鶴見大学歯学部卒業
  • 2006 年 エムズ歯科クリニック勤務

[主な所属・役職]

  • 厚生労働省認定歯科医師臨床研修指導歯科医
  • ICOI(International Congress of Oral Implantologists)指導医
  • 日本顎咬合学会会員
  • 日本口腔インプラント学会会員
  • 日本歯周病学会会員