親知らずについて
親知らずの基礎知識
親知らずとは
親知らず(おやしらず)は、専門的には「第三大臼歯」または「智歯(ちし)」と呼ばれる歯です。一般的に18歳から25歳頃にかけて生えてくる最後の歯で、上下左右に1本ずつ、計4本あります。
現代人の顎は昔と比べて小さくなっているため、親知らずが正常に生えるスペースが不足していることが多く、これがさまざまな問題を引き起こす原因になるといわれています。
| 清掃が難しい | :いちばん奥に位置するため、歯ブラシが届きにくく汚れが残りやすい |
|---|---|
| 斜め・横向きに生える | :顎のスペース不足により、まっすぐ生えないことがある |
| 埋伏歯になる | :完全に骨や歯ぐきの中に埋まったままの状態になることがある |
生えてくる時期にはさまざまな症状が出ることが多く、若い世代に問題が生じやすい傾向があります。生え方が多少悪くても、その位置で安定してしまえば、30代以降はトラブルなく過ごせることもあります。ただし「症状がない」ことと「何も問題がない」ことは同じではなく、症状がないだけでむし歯や歯周病(智歯周囲炎)の原因になることはあります。生え方が良くない場合は、積極的に抜くことも検討したほうがよいでしょう。
当院のこれまでの経験では、お父さまの大きな歯と、お母さまの小さな顎を受け継いだ場合、歯が並びきらず、歯並びが悪くなったり親知らずの生えるスペースがなくなったりすることが多くあります。このようなケースでは、親知らずが生える年齢になるとさらに歯並びが悪くなることがあります。まっすぐ生えなかった親知らずは、将来的に活用できる可能性が低く、トラブルも起こしやすいため、抜歯をおすすめすることが多くなります。
親知らずがもたらす問題
親知らずは、次のような問題を引き起こすことがあります。
| 智歯周囲炎(ちししゅういえん) | :親知らずの周囲の歯ぐきに細菌が感染し、炎症を起こす病気です。日本口腔外科学会によると、20歳前後の若い方に発生する頻度の高い病気として報告されています。 |
|---|---|
| むし歯・歯周病のリスク増加 | :清掃が難しいため、むし歯や歯周病が発生しやすくなります。また、隣り合う第二大臼歯にも悪影響を与えることがあります。 |
| 歯並びへの影響 | :親知らずが横向きに生えることで、前方の歯を押して歯並びが悪化することがあります。まっすぐ生えている場合は、歯並びに影響しないことも多くあります。 |
| 嚢胞(のうほう)の形成 | :埋伏した親知らずの周囲に液体がたまって嚢胞をつくり、顎の骨を溶かすことがあります。 |
智歯周囲炎について
親知らずのトラブルで特に多いのが、「親知らずが痛い」という理由でのご来院です。智歯周囲炎は、親知らずが生えてくる際に歯の頭を覆う歯ぐきが炎症を起こす病気で、主に次のような症状が現れます。
| 主な症状 |
|
|---|---|
| 炎症の進行段階 |
当院でも、こうした症状の患者さまを数多く診てきました。炎症を起こした親知らずは強い痛みを伴うことが多く、いったん炎症が起こると、炎症が治まるまでは歯を抜くことができません。まずはお薬で炎症を抑えてから抜歯を行います。そのため、まだ痛みの出ていない(症状のない)うちに抜くことが大切です。 |
エムズ歯科クリニックの親知らず治療
歯科用CTによる精密診断
| 神経・血管との位置関係 | :親知らずと下顎管(神経・血管が通る管)との正確な位置関係を確認します。 |
|---|---|
| 歯根の形態と方向 | :歯の根の形や向きを立体的に確認します。 |
| 周囲骨の状態 | :親知らず周囲の骨の状態を確認します。 |
| 隣接歯への影響 | :隣り合う歯への影響を確認します。 |
下顎の親知らずで神経に近接している場合のCT撮影は保険適用となります(費用は「費用について」参照)。
安全性への取り組み
エムズ歯科クリニックでは、親知らずの抜歯において安全性を大切にした治療体制を整えています。
| 大学病院口腔外科との連携 | :難易度の高い抜歯については、近隣の大学病院口腔外科と連携し、適切な紹介を行うことで安全性の向上を図っています。患者さまの状態に適した治療環境をご提供できるよう努めています。 |
|---|---|
| 静脈内鎮静法への対応 | :必要に応じて、自費診療にはなりますが、静脈内鎮静法を用いた抜歯にも対応しています。不安や恐怖心をやわらげ、リラックスした状態での治療が期待できます。 |
当院の経験では、抜歯が簡単に見える親知らずでも、実際に手を付けてみると難しかったり、反対に難しそうに見えた親知らずが意外とすんなり抜けたりすることがあります。骨の硬さや患者さまの開口度(どのくらい口を開けられるか)など、レントゲンだけではわからない要素があるためです。CT撮影などの診断をしっかり行って臨みますが、熟練した歯科医師でも時間がかかったり、術後に腫れたりする可能性は十分にあります。そのため、より専門性の高い治療をご希望の方には、はじめから専門医を紹介することもあります。その都度、患者さまと相談しながら治療計画を決めていきます。
静脈内鎮静法での対応
| 静脈内鎮静法とは | :静脈内に鎮静薬を投与することで、意識は保ちながらリラックスした状態をつくる方法です。全身麻酔とは異なり、治療中も意識があり、指示にしたがうことができます。 |
|---|---|
| 安全性について | :日本歯科麻酔学会「歯科診療における静脈内鎮静法ガイドライン(改訂第2版, 2017)」では、静脈内鎮静法は適切な研修とモニタリング(監視)のもとで行う方法とされています。また、副作用や偶発症を検討した報告(北川栄二ほか, 2006)でも、適切な管理下では重篤な合併症は稀とされています。 |
治療について知っておきたいこと
治療の流れ
- 1
初診・検査
- 口腔内診査:炎症の範囲と強さを視診で確認します。
- レントゲン撮影:炎症による骨の異常や、嚢胞などがないかを確認します。
- 必要に応じてCT撮影:神経に近くないか、親知らずが異常な形をしていないかなどを3次元的に確認します。
- 治療計画の説明:検査結果を踏まえて、治療内容・期間(回数)・費用などをお伝えします。
- 2
抜歯前の準備
- 炎症がある場合は消炎処置:炎症のある状態では抜歯できないため、洗浄・消毒・消炎の処置を行います。
- 抜歯方法の決定:いつ、どこで(歯科医院・大学病院)、どのように(局所麻酔・静脈内鎮静)行うかを検討します。
- リスクの説明と同意:外科処置に関わる必要な情報と、抜歯後の注意事項をご説明します。
- 3
抜歯処置
- 局所麻酔(必要に応じて静脈内鎮静法):痛みを感じにくいよう必要十分な量を麻酔します。
- 抜歯処置:実際に抜歯を行います。
- 止血確認と縫合:抜歯後、止血を確認し、必要に応じて傷口を縫います。
- 4
術後管理
- 抗菌薬・鎮痛薬の処方:術後の痛みをやわらげるためのお薬をお渡しします。
- 術後の注意事項の説明:いつから食べてよいか、消毒のために何をすればよいか、いつ麻酔が切れるかなどをご説明します。
- 定期的な経過観察:1週間ごとに、症状がなくなるまで経過を確認します。
費用について(保険診療)
親知らずの抜歯は、基本的に保険診療の対象となります。3割負担の場合の費用の目安をご説明します。
抜歯費用(3割負担)
| 普通抜歯(まっすぐ生えている親知らず) | 約800円 |
|---|---|
| 難抜歯(横向きや埋伏している親知らず) | 約1,430円 |
| 困難な抜歯(骨の削除が必要な場合) | 約3,000円 |
検査費用
| 初診料 | 約900円 |
|---|---|
| レントゲン撮影 | 約1,000円 |
| CT撮影(保険適用の場合) | 約3,000〜4,000円 |
処方薬
| 抗菌薬・鎮痛薬 | 約500〜1,000円 |
|---|
| 総額の目安 | 初診から抜歯完了まで、3割負担で約2,000〜8,000円程度です。 |
|---|
※静脈内鎮静法は自費診療となります(費用は別途ご相談ください)。
抜歯のメリット・デメリット
抜歯のメリット
- 智歯周囲炎の予防・改善が期待できます。
- むし歯・歯周病のリスクの軽減が期待できます。
- 隣り合う歯への悪影響の予防が期待できます。
- 歯並びの悪化予防に役立つ場合があります。
抜歯のデメリット・リスク
- 術後の腫れ・痛みが生じる場合があります。
- 出血が続く場合があります。
- 感染のリスクがあります。
- 神経損傷による麻痺が起こる可能性があります。下顎の親知らずは、下顎の太い神経に位置が近い場合があります。そのため抜く際に神経を圧迫することがあり、その結果、一定期間、下顎の表面に知覚鈍麻が起こることがあります。一般的には時間とともに軽減することが多いですが、長い場合は数年単位で麻痺が残ることがあります。
- ドライソケット(抜歯窩の治癒不良)の可能性があります。ドライソケットとは、抜歯後の穴に血液がうまくとどまらず、かさぶたができずに骨が露出してしまう状態です。頻繁なうがい、抜歯後に噛んでいたガーゼを早く外してしまう、頻繁にガーゼを取り換えて血を吸ってしまう、などが主な原因とされています。治療は、常に洗浄して清潔な状態を保ちながら、痛み止めや抗菌薬を飲み、1〜2週間での自然な治癒を目指します。
親知らずを残す(保存)という選択について
智歯周囲炎になると、多くの場合は抜歯が第一の選択肢になりますが、日程の都合や妊娠などでどうしても抜けない場合には、抜かずに炎症だけを取り除く保存療法を選ぶこともあります。ただし当院のこれまでの経験では、保存した親知らずは再び痛くなる可能性が高く、一時的な応急処置の延長であることをご理解いただいています。
- 抜歯手術による麻痺などのリスクを回避できます。
- 抜歯せずに残しておけば、将来ほかの歯を失ったときに移植歯として利用できる可能性があります。ただし、サイズの問題などから、適応となるケースは限られます。
保存のデメリット
- 智歯周囲炎が再発するリスクがあります。
- 清掃が難しいため、むし歯・歯周病のリスクがあります。
- 隣り合う歯への悪影響の可能性があります。
よくあるご質問
必ずしも抜歯が必要というわけではありません。正常に生えていて、清掃ができ、問題を起こしていない親知らずは残すことも可能です。ただし、智歯周囲炎を繰り返す場合や、むし歯・歯周病のリスクが高い場合には抜歯をおすすめしています。
個人差がありますが、通常は2〜3日がピークで、1週間程度で落ち着くことが期待されます。処方された鎮痛薬を適切に服用することで、痛みの軽減が図れます。
すべての場合で必要というわけではありません。下顎の親知らずで神経に近接している疑いがある場合や、複雑な場合に、安全な抜歯のために撮影をおすすめしています。
妊娠中でも緊急性がある場合は治療できますが、安定期(妊娠中期)での治療が望ましいとされています。妊娠の可能性がある場合は、必ず事前にお知らせください。
術後24時間は激しい運動や長時間の入浴を避け、処方された薬を指示どおり服用してください。また、抜歯した部位を舌で触ったり、強くうがいをしたりしないようご注意ください。
患者さまの全身の状態や親知らずの状況によって判断します。静脈内鎮静法を用いることで、複数本の同時抜歯が可能な場合もあります。詳しくはご相談ください。
下顎の親知らずでは、神経損傷による一時的な麻痺が起こる可能性があります。多くの場合は時間の経過とともに改善が期待できます。当院ではCT診断により事前にリスクを評価し、適切な治療方法を選択します。
まとめ
参考文献
公益社団法人 日本口腔外科学会「口腔外科相談室(智歯周囲炎ほか)」
日本口腔外科学会雑誌「智歯周囲炎に関する学術報告」
日本歯科麻酔学会「歯科診療における静脈内鎮静法ガイドライン(改訂第2版、2017)」(監修:日本歯科医学会)
北川栄二ほか「静脈内鎮静法における副作用および偶発症の検討」日本有病者歯科医療学会雑誌, 2006; 15(2):79-86
JAID/JSC感染症治療ガイドライン2016(歯性感染症)
American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons(AAOMS)"Management of Third Molar Teeth"(White Paper, 2016)

