歯科治療に関わる栄養素

代謝には様々な栄養素が関わり合いますが、歯科治療に関わりの大きい栄養素についてご紹介します。

歯周病と栄養

歯周病とは、歯と歯茎の隙間から侵入した細菌が、歯肉に炎症を引き起こし、さらには歯を支えている骨(歯槽骨)を溶かしてしまう病気です。進行すると歯がグラグラになってしまい、最悪の場合は歯が抜けてしまったり抜かなくてはいけなくなってしまったりすることもあります。

歯科医院で歯周病の治療をすることで、原因となっている細菌(歯周病菌)を除去して、歯肉の炎症を抑えたり、骨が溶けてしまうのを食い止めたりします。しかし、炎症を抑えて、骨が溶けてしまうのを食い止めたとしても、不健康になってしまった歯茎などの組織を健康な状態に導くためには、患者様自身の体内の栄養状態が大きく関わります。

(1) タンパク質

例えば、粘膜の大半はコラーゲンでできており、歯茎の約60%がコラーゲンでできています。コラーゲンの原料はタンパク質であることから、歯茎を健康な状態に導くためには、タンパク質が必要です。

(2)ビタミンC

ビタミンC

コラーゲンの原料はタンパク質ではありますが、タンパク質やコラーゲンのみが存在していても、歯茎をつくることは難しいです。理由としては、お口から摂取したコラーゲンがそのまま歯茎などの組織を形成するのではなく、体内で代謝が起こることで組織になるためのコラーゲンが生成されるのです。コラーゲンの代謝にはビタミンCが必須で必要であり、コラーゲンの摂取とともにビタミンCの摂取が必須で必要であるということです。

(3)亜鉛

「細胞」という単語を聞いたことはありますでしょうか?私たちの身体はたくさんの細胞がひとかたまりになってできています。身体の組織をつくっているのも細胞で、その細胞が組織になるためには「細胞分裂」という過程が必要です。その細胞分裂の際に、亜鉛を含んだタンパク質が働くため、亜鉛が不足すると細胞分裂にトラブルが生じることがあります。つまり、組織をつくり、健康な状態に導くために亜鉛の摂取も必要であるといえます。

(4)ビタミンB群(葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12など)

ビタミンB群は、必須アミノ酸のひとつである「メチオニン」という物質の肝臓での代謝に関わっています。ビタミンB群が不足していると、メチオニンがホモシステインに変わる過程とホモシステインがシステインに変わる過程が阻害され、ホモシステインが過剰につくられます。過剰なホモシステインは、コラーゲンの形成を阻害することから、歯茎を健康な状態に導く過程を阻害してしまうのです。また、過剰なホモシステインは、動脈硬化を促進するということから、歯茎の健康状態だけではなく、全身の健康状態にも関わります。

(5)ビタミンD

体内に侵入した細菌やウイルスを食べる働きがある「マクロファージ」と呼ばれる白血球の1種が体内には存在し、マクロファージは私たちを病気や感染症から守ってくれる、重要な免疫細胞の1つです。このマクロファージを活性化するためにビタミンDが必要であり、ビタミンDがあることでマクロファージが活性化され、歯周病で起きている炎症を健康な状態に導く助けになります。


インプラント治療と栄養

インプラント治療では、フィクスチャーと呼ばれるインプラントの本体になる部分を骨の中に埋入します。フィクスチャー埋入後、フィクスチャーと骨が結合するオッセオインテグレーションという状態まで待機します。歯科医院ではフィクスチャーの埋入と骨の形成を助けるような治療を行いますが、最後に自分の体内の骨を形成するのは自身が摂取した栄養素です。骨の形成に関わる栄養素はいくつかあります。

(1)カルシウム

骨の大半はカルシウムで形成されています。カルシウムは骨や歯の形成や骨の維持など身体の維持にも活用されますが、筋肉の収縮や正常な心拍の維持、血液の凝固など生命の維持にも活用されます。摂取するカルシウムの量が不足し、血中のカルシウム濃度が低下すると、生命維持のために骨からカルシウムが放出されるため、骨の形成や維持に活用できるカルシウムが減ってしまいます。つまり、カルシウムの摂取量が不足していると、インプラント治療の過程で大切な骨の形成を阻害する要因になる可能性があります。

(2)マグネシウム

マグネシウムもカルシウムと共に骨を形成するミネラルの1種です。また、マグネシウムもカルシウムのように生命の維持にも活用されるため、摂取するマグネシウムの量が不足し、血中のマグネシウム濃度が低下すると、生命維持のために骨からマグネシウムが放出されるため、骨の形成や維持に活用できるマグネシウムが減ってしまいます。つまり、カルシウムと同様に、マグネシウムの摂取量が不足していると、インプラント治療の過程で大切な骨の形成を阻害する要因になる可能性があります。

(3)ビタミンD

ビタミンDはマクロファージを活性化し免疫機能の向上にも関わる栄養素ですが、カルシウムの吸収にも関わる栄養素です。ビタミンDはカルシウムやリンなど骨形成に関わる栄養素の吸収を促進する栄養素で、ビタミンDが存在することで、骨の形成を促すことができるため、ビタミンDの摂取不足も、インプラント治療の過程で大切な骨の形成を阻害する要因になる可能性があります。



著者経歴

佐藤 優香

佐藤優香

  • 2017年3月 神奈川県立保健福祉大学保険福祉学部栄養学科 卒業
  • 管理栄養士国家資格 取得
  • 2017年4月 エムズ歯科クリニック元住吉 入社
  • 2018年9月 エムズ歯科クリニック チーフ就任
  • 2019年12月 エムズ歯科クリニック マネージャー就任
  • 2020年12月 NR・サプリメントアドバイザー 資格取得

[現在まで]

  • トリートメントコーディネーター、管理栄養士として勤務。
  • 院内では歯科管理栄養士の立ち上げに携わる。
  • また、新人の歯科助手育成のためのDA学校の講師を担当。
  • MID-GにてTC導入セミナーの講演を担当。
  • MID-Gにて外部向けTC学校の講師を担当。
  • MID-Gにて歯科管理栄養士に関する講演を担当。